はじめに

損益分岐点とは、ビジネスの収益性を評価するための重要な指標です。特に、中小企業やスタートアップにとって、事業が利益を生み出すために必要な売上高を把握することは非常に重要です。しかし、この損益分岐点の概念は、初めて学ぶ人にとって少し難しく感じられることがあります。本記事では、初心者にも分かりやすく、かつ専門的な知識をもとに、損益分岐点の理解を深めることができる内容を提供します。

損益分岐点の基本的な考え方

損益分岐点(Break-even Point, BEP)とは、売上が総コストと等しくなる点を指します。この点において、利益も損失も発生しない状態にあります。つまり、損益分岐点を超える売上を達成することで、初めて利益を得ることができるのです。

損益分岐点は次の式で計算できます。下記グラフもご参考ください。

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)

ここで、固定費は生産量や売上に関係なく発生する費用(例:家賃、人件費など)、変動費率は売上に応じて増減する費用(例:原材料費など)の割合を指します。

例題:フラワーショップにおける損益分岐点

例えば、あるフラワーショップを運営しているとします。このフラワーショップの家賃や人件費などの月々の固定費は80万円です。フラワーショップで提供するブーケ一束あたりの材料費やその他の変動費が1,800円で、販売価格は3,000円とします。
まず、変動費率(売上に対応する変動費の割合)を計算します。
ブーケ一束当たりの売上に対応する変動費の割合(変動費÷販売価格)は0.6となります。

変動費率=1,800円÷3,000円=0.6

次に、損益分岐点売上高を計算します。

損益分岐点売上高=800,000円÷(1−0.6)= 2,000,000円

この結果から、フラワーショップが月々2,000,000円の売上を達成すれば、損益分岐点に達することが分かります。つまり、この金額以上の売上を得ることで、フラワーショップは利益を生み出すことができるのです。

損益分岐点の重要性

損益分岐点を理解することは、経営者にとってさまざまなメリットをもたらします。

  1. 意思決定の基礎
    新しいプロジェクトやビジネスの立ち上げに際して、損益分岐点を計算することで、どの程度の売上を見込めば事業が成り立つのかを判断できます。
  2. コスト管理
    固定費と変動費を正確に把握することで、経営者はコスト削減のための戦略を策定しやすくなります。また、損益分岐点を下げるための手段として、固定費の削減が効果的であることが分かります。
  3. 目標設定
    売上目標を設定する際に、損益分岐点を基準にすることで、現実的かつ達成可能な目標を立てることができます。

応用編:損益分岐点の調整と分析

損益分岐点の計算ができるようになったら、次のステップはその調整と分析です。経営環境やコスト構造が変化した場合、損益分岐点も変動します。例えば、材料費が上昇した場合、変動費率が高くなり、結果として損益分岐点も上昇します。
これに対応するためには、以下のような戦略が考えられます。

  1. 価格の引き上げ
    売上単価を上げることで、変動費率を下げることができます。ただし、顧客の価格感度にも注意する必要があります。
  2. コスト削減
    固定費や変動費を削減することで、損益分岐点を引き下げることができます。これには、効率的な生産方法の導入や、コストの低い供給元を探すことが含まれます。材料調達のコスト縮小は様々な手法を検討して意思決定することが重要です。
  3. 売上拡大
    新たなマーケットや顧客層を開拓することで、売上を増加させ、損益分岐点を超える可能性を高めます。販路拡大への投資は慎重かつ大胆に協議、検討することがポイントです。

損益分岐点の留意点

損益分岐点を計算する際には、いくつかの重要な留意点があります。これらを無視すると、実際のビジネスの収益性を正確に評価できなくなる可能性があります。

  1. 固定費として計上している人件費
    損益分岐点の計算では、通常、人件費を固定費として扱いますが、実際のビジネスでは、残業代やアルバイトへの支払いなど、変動的な要素が含まれることが多いです。特に、業務量の変動が大きいビジネスでは、人件費が売上に連動して増減するため、これを単純に固定費として扱うことはリスクがあります。人件費の変動を考慮に入れた上で損益分岐点を再計算する、又は、固定費に残業比率を含めて計算することが求められます。
  1. 税金などのコスト
    損益分岐点の計算では、基本的に法人税や消費税などの税金は考慮されていません。しかし、実際のビジネス運営においては、これらの税金が収益に大きな影響を与えることがあります。特に法人税は、利益が出た場合に必ず発生するコストであり、損益分岐点を超えて利益を確保する際に、その税負担を考慮する必要があります。これを見落とすと、予想外のコストが発生し、実際の利益が思ったよりも少なくなるリスクがあります。消費税では、課税事業者に対して納税義務が発生しますが、納付すべき消費税は複雑な計算過程を経て算定されるため、消費税に対する準備がない場合には決算時の消費税の申告時点で予想外の税負担が発生することがあります。
  1. 複数の製品やサービスを取り扱っている場合(セールスミックス)
    複数の製品を販売している場合、セールスミックス(販売構成比率)を考慮することが極めて重要です。セールスミックスとは、異なる製品やサービスが全体の売上にどの程度寄与しているかの割合を示すものです。損益分岐点を計算する際には、このセールスミックスを基に各製品の貢献度を考慮する必要があります。
    例えば、利益率が高い製品と低い製品を同時に販売している場合、全体の損益分岐点はこれらの製品の売上比率に依存します。高利益率の製品がセールスミックスの大部分を占めているならば、損益分岐点は低くなり、逆に低利益率の製品が主であれば、損益分岐点は高くなります。したがって、セールスミックスを適切に設定し、各製品の売上目標を明確にすることが重要です。
  1. 複数の製品やサービスを取り扱っている場合(製品別・事業別の固定費集計)
    複数の製品や事業を展開している場合、それぞれの製品や事業ごとに固定費を集計することが重要です。全体の固定費を単一の損益分岐点として計算するのではなく、製品や事業ごとに個別の固定費を割り当てることで、より精度の高い損益分岐点分析が可能になります。
    例えば、製造業の場合、製品Aのための機械設備や専用のスタッフにかかる固定費と、製品Bのための固定費を明確に分けて計算します。これにより、製品Aと製品Bそれぞれの損益分岐点を独自に算出でき、どの製品が収益性の向上に寄与しているのかを正確に把握することができます。

これらのプロセスを通じて、経営者は各事業や製品の収益性やビジネス全体をより深く理解し、効率的なリソース配分や戦略的な意思決定を行うことが可能となります。
損益分岐点を正確に把握するためには、単一の計算方法に頼るのではなく、ビジネスの複雑さに応じた詳細な分析が必要です。正確に計算することにより、複雑なビジネス環境でも確実に利益を追求できるでしょう。

まとめ

損益分岐点の理解は、ビジネスを成功に導くための第一歩です。初心者でも理解しやすい基本的な考え方から、実際のビジネスに応用できる専門的な戦略まで、損益分岐点はあらゆるレベルの経営者にとって欠かせないツールとなります。
株式会社イープレンティフルでは、こうした基礎的な知識から応用編まで、企業の成長を支援するための様々なトレーニングやコンサルティングサービスを提供しています。損益分岐点を理解し、ビジネスを成功に導くためのサポートをぜひご活用ください。

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